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News letter 第1回 国際税務の基礎知識 1

フェニックス国際税務研究所 ニュースレター 2018年3月30日発行 第1号

国際税務の基礎知識 1.

1.はじめに-国際税務への理解を深めるために

日本の税法上、国際税務という言葉は法律の条文においては存在しませんが、日本国内だけで完結する取引ではなく国内と国外を跨ぐ取引に対する課税関係につき話をする場合、一般的に国際税務という言葉が使われます。

国際税務を検討する場合、日本の企業や居住者である個人が国外で取引を行う場合(いわゆるアウトバウンド)と、海外の企業(外国法人)や海外に在住する個人(非居住者)が日本国内で取引を行う(いわゆるインバウンド)場合の2つのパターンがあります。いずれにおいても、国境を超える取引を行う場合、日本の課税関係、海外での課税関係、及び両国間での租税条約による取り扱いの全てを確認する必要があり、それぞれの課税関係に対する理解が無い場合、課税関係につき適切な取り扱いを確認することは出来ません。

海外での課税関係については現地国における税法を確認する必要があり、また、租税条約についてはモデル租税条約があるものの、各国間ごとに個別に締結されているため、対象国との租税条約の内容を個別に確認する必要があります。

しかしながら、各国の税法の設立根拠、概念等については国際的なスタンダートに基づき定められていることが多いため、海外の税法も日本の税法に類似する点が多くあります。したがって、日本の税法の取り扱いを理解することにより、海外の税法や租税条約の取り扱いの理解が容易になると考えられます。本稿においては、国際税務の基礎知識習得のために、まずは普段より触れ居ている日本の税法における国際税務、特に「所得」に対する課税関係の取り扱いについて解説をしていきます。

2.国際取引に対する日本の税務上の取り扱い

1) 国内源泉所得に対する課税の原則について

日本の国内法人(内国法人)の取引において国際税務の論点が最も多く発生するのは、外国法人や非居住者に対する支払いに対する日本での源泉所得税であると思われます。

内国法人が海外の事業者と取引を行い、支払いをする際に配当、利子、使用料、などに該当するものについては、原則源泉所得税の課税対象となります。一方、海外で提供されたサービスに対するサービスフィーについては、原則源泉所得税の課税がありません。この様な差異はなぜ発生するのでしょうか。

通常各国における課税対象の範囲は、各国に存在する法人や各国に住所等を有する個人(居住者)に対する課税及び、外国法人や非居住者である個人が各国で得た所得に対して課税すると定められていることが通常です。仮にある国が他国の法人、個人に対し自由に課税できる税法を規定した場合、当該国に一切関係のない国の法人、個人に対し課税することが可能となり、これは国際的に許容されるものではないと考えられます(下記図1.参照)。

上記により、日本においても日本以外の国に存在する法人、居住する個人については、日本国内で得た所得(以下「国内源泉所得」と言います)のみ課税することとされています。したがって、海外の事業者が国内源泉所得を有している場合のみ日本で課税を行うことが出来ると言えます。この国内源泉所得の範囲は日本の税法で定められており、その所得の種類に応じ課税関係が異なるため、上記の差異が発生することとなります。この差異が発生することを理解するために、まずは国内源泉所得の範囲を確認する必要があります。

2) 国内源泉所得の範囲

上記1)の話は海外の事業者が日本で課税されるかという論点のため、内国法人には直接関係のない話の様に見えます。しかしながら、内国法人による外国法人や非居住者との取引が国内源泉所得の範囲に含まれるものであり、支払時に源泉所得税の課税対象となるものである場合、源泉所得税の納付義務は内国法人が負うため、内国法人においても、当該取引が源泉所得税の対象となるか内国法人において確認を行う必要があると考えられます。

日本の税法においては、外国法人及び非居住者に対する国内源泉所得については、以下のものが対象となるとされています。

① 恒久的施設帰属所得、国内にある資産の運用又は所有により生ずる所得、国内にある資産の譲渡により生ずる所得

② 組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生ずる利益で、その組合契約に基づいて配分を受けるもののうち一定のもの

③ 国内にある土地、土地の上に存する権利、建物及び建物の附属設備又は構築物の譲渡による対価

④ 国内で行う人的役務の提供を事業とする者の、その人的役務の提供に係る対価(例えば、映画俳優、音楽家等の芸能人、職業運動家、弁護士、公認会計士等の自由職業者又は科学技術、経営管理等の専門的知識や技能を持つ人の役務を提供したことによる対価がこれに当たります)

⑤ 国内にある不動産や不動産の上に存する権利等の貸付けにより受け取る対価

⑥ 日本の国債、地方債、内国法人の発行した社債の利子、外国法人が発行する債券の利子のうち恒久的施設を通じて行う事業に係るもの、国内の営業所に預けられた預貯金の利子等

⑦ 内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等

⑧ 国内で業務を行う者に貸し付けた貸付金の利子で国内業務に係るもの

⑨ 国内で業務を行う者から受ける工業所有権等の使用料、又はその譲渡の対価、著作権の使用料又はその譲渡の対価、機械装置等の使用料で国内業務に係るもの

⑩ 給与、賞与、人的役務の提供に対する報酬のうち国内において行う勤務、人的役務の提供に基因するもの、公的年金、退職手当等のうち居住者期間に行った勤務等に基因するもの

⑪ 国内で行う事業の広告宣伝のための賞金品

⑫ 国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく年金等

⑬ 国内にある営業所等が受け入れた定期積金の給付補てん金等

⑭ 国内において事業を行う者に対する出資につき、匿名組合契約等に基づく利益の分配

⑮ その他の国内源泉所得(例えば、国内において行う業務又は国内にある資産に関し受ける保険金、補償金又は損害賠償金に係る所得がこれに当たります)

3) 国内源泉所得に対する課税方法

外国法人が上記2)に該当する所得を有する場合、日本の法人税法及び所得税法に基づき、法人税や所得税が課税されます。本来、日本の法人税及び所得税の課税については、「所得」、つまり収益から関連する原価や費用を控除した利益に対し課税することが原則となり、納税者が自ら所得の計算を行い申告、納税を行う申告納税方式が原則採用されています。しかしながら、日本に拠点のない全ての外国法人等に対し日本で申告納税を行うことを要求することや、申告納税を行わない外国法人等に対し徴税を行うことは実務上難しいと考えられます。したがって、徴税を容易にする制度として、外国法人等の国内源泉所得対する納税額を、内国法人が外国法人に対し支払いを行う際に、内国法人が外国法人に代わって納税を行う源泉所得税の制度が採用されています。

前述の様に、法人税や所得税は、本来「所得」に対し課税されるべきですが、徴税の煩雑さを回避するため、源泉所得税は外国法人の「収入金額」に対し10%、20%等一律の税率で課税が行われ、上記①の恒久的施設を有し日本で申告納税を行う場合等の一定の場合を除き、源泉分離課税として源泉徴収のみで課税関係が完了します。この源泉徴収制度については、他国においても通常は同様の取り扱いとなっております。

一方、外国法人が①の恒久的施設(日本での事業拠点。Permanent Establishment。以下「PE」と言います)を有している場合や、資産の運用又は保有による所得、国内資産を譲渡した場合には、外国法人においても日本で稼得した「所得」につき申告納税を行う必要があります。ただし、PEを有していない外国法人に対する「事業所得」については、国内源泉所得の範囲から除かれており、日本での課税は発生しません。

前述のサービスフィーに日本で源泉所得税が課税されない理由は、当該サービスフィーは外国法人による「事業所得」に該当し、日本国内にPEを有していないという前提の場合、日本の法人税及び所得税は非課税となるため、日本における課税関係は発生しないこととなります(日本の法人税法、所得税法における国内源泉所得に対する課税関係の概要については「別紙1.」をご参照下さい)。

したがって、外国法人と取引を行う場合には、まず当該取引が国内源泉所得の取り扱いにおいて、いずれの取引に該当するかを特定する必要があります。更に、源泉所得税の対象となる取引である場合には、租税条約による源泉税率の減免が無いか確認を行う必要があります。

3.国際税務の基礎知識1.総論

l 国際税務を理解するためには、まず日本の税務上の取り扱いを理解する必要がある

l 日本の税務上、外国法人等に対する課税はその所得の種類に応じて課税関係が異なるため、いずれの所得に該当するかの確認が重要

次回「国際税務の基礎知識2.」においては、国内源泉所得の特定についてより具体的なお話を差し上げたいと思います。特に、恒久的施設に対する課税及び源泉所得税、租税条約の取り扱いについて解説致します。

別紙1.(国税庁HPより抜粋)

(注)

1 措置法第37条の10の規定により、国内に恒久的施設を有する者が行う株式等の譲渡による所得については、15%の税率で申告分離課税が適用されます。

 なお、平成20年改正前の旧措置法第37条の11の規定により、平成15年1月1日から平成20年12月31日までの間の上場株式等の譲渡による所得については7%の軽減税率が適用されます。

 また、平成21年1月1日から平成23年12月31日までの間の上場株式等の譲渡による所得については経過措置としてなお7%の軽減税率が適用されます(平成21年改正後の平20改正法附則43)。

2 措置法第41条の9の規定により、懸賞金付預貯金等の懸賞金等については、15%の税率で源泉分離課税が適用されます。

3 措置法第41条の12の規定により、割引債(特定短期公社債等一定のものを除きます。)の償還差益については、18%(一部のものは16%)の税率で源泉分離課税が適用されます。

4 資産の所得のうち資産の譲渡による所得については、不動産の譲渡による所得及び所令第291条第1項第1号から第6号までに掲げるもののみ課税されます。

5 措置法第37条の12の規定により、国内に恒久的施設を有しない者が行う株式等の譲渡による所得については、15%の税率で申告分離課税が適用されます。

6 措置法第42条の規定により、特定の免税芸能法人等が得る対価については、15%の税率が適用されます。

7 措置法第3条及び第41条の10の規定により、国内に恒久的施設を有する者が得る利子等(四号所得)及び定期積金の給付補てん金等(十一号所得)については、15%の税率で源泉分離課税が適用されます。

8 措置法第8条の2の規定により、国内に恒久的施設を有する者が得る配当等(五号所得)のうち私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等については、15%の税率による源泉分離課税が適用されます。

9 平成20年改正前の旧措置法第9条の3の規定により、上場株式等に係る配当等(当該配当等の支払に係る基準日において当該配当を支払う内国法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の5%以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する個人がその内国法人から支払を受けるものを除きます。)、公募証券投資信託(公社債投資信託及び特定株式投資信託を除きます。)の収益の分配に係る配当等及び特定投資法人の投資口の配当等については、平成15年4月1日から同年12月31日までの間は10%、平成16年1月1日から平成23年12月31日までの間は7%の軽減税率が適用され、平成24年1月1日以後は措置法第9条の3の規定により15%の税率が適用されます(平成21年改正後の平20改正法附則33)。

10 措置法第8条の5の規定により、国内に恒久的施設を有する者が得る配当等(源泉分離課税が適用されるものを除きます。)については、確定申告による総合課税又は申告分離課税(平成21年分以後)を受ける必要のないいわゆる配当所得の確定申告不要制度の適用が認められます。

11 措置法第9条の5の2の規定により、外国特定目的信託の利益の分配及び外国特定投資信託の収益の分配については、内国法人から受ける剰余金の配当とみなされます。

12 所法第5条、第6条の2、第6条の3及び第7条の規定により、法人課税信託の受託者は、その信託財産に帰せられる所得についてその信託された営業所(国内又は国外の別)に応じ、内国法人又は外国法人として所得税が課税されます。

13 措置法第41条の21の規定により、投資組合契約を締結している外国組合員で当該投資組合契約に基づいて行う事業につき国内に恒久的施設を有する者のうち一定の要件を満たすものについては、特例適用申告書を提出することにより国内に恒久的施設を有しないものとみなされます。

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