1. はじめに
前回のニュースレターではシンガポールの税務をご紹介いたしましたが、今回はインドネシアの税制の基本をお伝えしたいと思います。
インドネシア国の税制の理解は、インドネシアが絡む国際取引、国際税務の理解の一助となりますので、ご参考としていただければ幸いです。
2. インドネシアの税制概要
インドネシアの税金は所得税(法人・個人)、付加価値税、奢侈品税、固定資産税、その他(印紙税、物品税、関税、その他)であり、2017年の税収総額は1,151兆ルピア(およそ9兆円)となっております。
内訳としては所得税が56%、付加価値税及び奢侈品税が42%、その他税が2%となっています。
法律体系としては所得税法という大きな枠組みの中に法人と個人が含まれるという形になっているため、日本のような法人税法、所得税法という切り分けはありません。税制改正は財務大臣規則などで不定期に発表されます(直近では2018年3月タックスホリデーに関する財務大臣規則が発表されております)。
1) 法人税
インドネシア法人は決算日後4ヶ月以内に納税+申告を行なう必要があり、会計監査が未了、などの場合は必要な納税は先に行いますが、2か月間の申告延長が認められております。
課税所得は、会計上の利益に申告 調整項目を加算、減算して算定しますが、日本と比して加算の範囲は広くなっており、実質税負担率は高くなる傾向にあります。
税務調査は過去5年間が対象となり、還付請求や、高額納税、未申告などの場合は、税務調査が入りやすく(還付は100%税務調査対象)、1年超にわたる税務調査の対応が必要となる場合もあります。
また、インドネシア個人は納税者番号を有しているすべてが毎年3月末までに納税+申告を行う必要があり、税務調査についても手間は変わりますが、法人と同様の対応が必要となります。
2) 付加価値税(PPN)
インドネシアの付加価値税の税率は10%となっており、課税事業者がタックス・インボイスを発行し、これを証拠書類として仕入税額控除を行なうインボイス方式を採用しています。税務調査は法人税と同様に過去5年間が対象となります。
3) その他
インドネシアでは、上記の税金の他にも、印紙税、固定資産税といった日本でもおなじみの税金があります。また、たばこ税、酒税などは、物品税と言われ、リットルあたりあるいはグラム当たりいくら、という税金が課せられることになっています。
3. インドネシア所得税(法人税・個人所得税)概要
概要をわかりやすく記載するため、適用上の細かい要件などは多くの部分を省略しています。具体的な適用にあたっては個別にご相談いただきますようご留意ください。
1) 税率
インドネシアの法人税率は現在25%(軽減税率が適用される場合あり)、個人所得税率は5%~30%(累進課税)とされています。日本は法人税の実効税率は、約30%ですので地方税がない分、インドネシアの税率の方が安いように感じられますが、課税所得の計算上加算項目が多いことを考えると、実質上は日本とほぼ差はないこともあると考えられます。
税制優遇措置のタックスホリデーは投資額が大きい限られた業種に適用されますので、一般的にはあまり影響がないものと考えられます。
2)キャピタル・ゲイン非課税
インドネシアでは、不動産の売却によるキャピタル・ゲインについては利益に対してではなく、売却価額の2.5%のファイナルタックス課税(この取引に関してはここで課税関係が完了)となっております。
一方、株式の売却はインドネシア国内法人あるいは個人が売却した場合ファイナルタックスではなく、通常の課税所得に加えて申告をいたします(上場会社の株式は売却価額の0.1%ファイナルタックス)。
3) 配当金課税
インドネシアではインドネシア国内の関係会社(25%以上保有)からの配当金についてはすべて課税免除となりますが、それ以外は源泉所得税を15%差し引かれたのち、課税所得に参入して税金を支払います(源泉税は前払扱い)。
4) 繰越欠損金
日本では現行法上、繰越可能期間は 10年ですが、インドネシアでは過去5年の欠損金を繰り越すことが可能です。
5) 外国税額控除
インドネシアおいても、日本と同様、外国税額控除制度が設けられています。主に個人所得税の申告で外国税額控除を適用するケースが多いと言えます。
6) 移転価格税制
インドネシア法人が下記の要件に当てはまりますと、移転価額文書(ローカルファイル、マスターファイル)の作成義務が生じます(文書は会社に備置し、作成していることは税務申告書の添付資料で申告しますので、いつでも提出できるようにしておく必要があります)
インドネシアでの売上が500億ルピア(およそ4億円)以上
関連会社とのお取引が200億ルピア(およそ1億6千万円)以上(利息やロイヤリティーの場合は50億ルピア(4千万円)以上)
インドネシアの税率と低いとみなされる国(低税率国;シンガポール、香港、韓国、マレーシア、タイ等)との取引があること(少額でも)
なお、インドネシアが親会社となる場合の連結売上が11兆ルピア(880億円)超の場合はCBCR(国別報告書)と言われる移転価額文書の作成義務がありますが、このケースはあまりないと思います。ただし、本社で作成されている場合、インドネシアでも提出を求められることもございますので、ご注意ください。
次回「インドネシア税務(第2回)」においては、法人税の軽減税率の適用(中小企業向けのファイナルタックス課税含む)、損金不算入項目の規定をご紹介致します。
おまけコラム
‐インドネシア現地情報
インドネシアはラマダンと言われる宗教上の長期休暇が終了し、本日統一地方選挙が行われております。選挙の日を国民の祝日とする大統領令が2日前に発表されるなど、業務上の柔軟な対応が求められるのはいつものこととなっております。
また、現在はサッカーワールドカップが流行っており、あちこちでサッカー観戦の様子が見られます。インドネシアは2015年に、国際サッカー連盟(FIFA)から会員資格を停止されたため今回のワールドカップは出場できていないのですが、それでも国民のサッカーへの関心は熱いものがあります(国内リーグに政府が介入しすぎていることを理由で、2016年に資格停止処分は解除)。
ちょうど、今年は日イ国交樹立60周年となっていることも関係し、日本から河野外相も来イし、インドネシア離島の開発で日本からの25億円の無償供与が決まりました。特に中国からの影響が大きくなっている傾向にはあります、日本も重要な関係国として認識されていると思います。
日本人に対しては好感を持っていただいていると感じることが多く、文化の違いを感じる機会は多いですが、私たちにとって働きやすい環境といえます。