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News letter 第9回 2019年マレーシア予算案(税制改正)

2019年 マレーシア予算 (税制改正) 

 

2018年11月2日にマレーシア政府予算案が公表されました。今回の予算案は、2018年5月の総選挙により誕生したマハティール新政権のもとでの初めての予算案となりました。

 

内容としては総選挙時に掲げていた低所得者層への支援の拡充としての最低賃金の改定や所得控除の拡充、物品・サービス税の廃止と売上・サービス税の復活などを実行しています。一方で、政権発足後に発覚したナジブ政権による隠し債務に対応するために、財政の健全化を目的とする課税ベースの拡大も同時に行っています。同時に、前政権時の汚職による隠し資産を洗い出すため、説明不能な財産に対する税務調査の実施と、自主申告した場合の大幅なペナルティの減額を行うとしています。

 

このように2019年予算案は、低所得者の支援と財政健全化を同時に目指すもので、政権としての苦労が見られますが、予算案のテーマは“A Resurgent Malaysia, A Dynamic Economy, A Prosperous Society” (マレーシアの復活、活力ある経済、繁栄する社会)で、以下の3つの領域における12の戦略に注力することとなっています。

 

  1. To Implement Institutional Reforms (制度改革)

マレーシア政府の改革。財務行政の強化の他、政府政務のリストラクチャリングと合理化、政府税収の向上を戦略と位置付けています。

 

  1. To Ensure the Socio-Economic Well-Being of Malaysia

マレーシア国民の社会的・経済的な健全性の確保。雇用の拡充の他、各種福祉政策の実行、教育に対する支援策と同時に不動産の譲渡所得に対する増税も重要戦略として位置付けています。

 

  1. To Foster an Entrepreneurial Economy

事業を創出する経済の育成。新経済分野の成長の加速、グローバルな危機における事業機会、政府のビジネスにおける役割の見直し、公正で持続力のある経済成長を造り出す必要があるとしています

 

今回の予算案を税制改正としてみると、欠損金等の制限が行われるなど厳しいものが見られますが、実務的には既に2018年に導入された売上・サービス税(SST)の細かな制度改正が行われており、注意が必要です。

 

 

法人所得税の税制改正

 

1.       中小法人の法人税率の軽減

 

2019賦課年度(2019年中終了事業年度)より、中小法人の課税所得RM500,000(約13百万円)以下の部分における軽減税率が18%から17%に軽減されました。

その結果、マレーシアの法人税率は以下のようになりました。

 

法人税率 普通法人 中小法人
RM 500,000(約13百万円) 超 24% 24%
RM 500,000(約13百万円)以下 17%

 

なお、中小法人の定義はマレーシアの居住法人で、資本金がRM2,500,000(約65百万円)以下の法人です。親会社等の支配会社もこの資本金基準を満たしている必要があります。

 

2.       繰越欠損金および減価償却費(キャピタルアローアンス)の繰越制限

 

繰越欠損金や未使用の減価償却費(キャピタルアローアンス)の繰越期間については、従来は繰越期間の制限がありませんでしたが、今回の改正により繰越可能期間が7年間となりました。

 

なお、休眠会社の繰越欠損金と、繰越減価償却については、株主の実質的な変更があった場合には、上記繰越可能期間にかかわらず使用不能となることには変更がありませんので、留意が必要です。

 

また、この7年間の制限は繰り越した再投資控除、サービスセクターへの投資控除、パイオニア・ステータス適用期間中の未使用の繰越欠損金などにも適用されます。

 

3.       グループ合算税制(損失移転)の利用期間の制限

 

マレーシア法人で発生した欠損金は、その70%を限度として、単年度ごとに黒字のグループ会社に移転して当該グループ会社の課税所得から控除することができます。

この損失移転制度は従来は最初の12か月間の年度以降の課税年度から将来にわたって適用可能でしたが、今回の改正によって、営業開始後12か月経過した時点から、その後の3課税年度のみの適用に限定されることとなりました。

 

なお、適用要件としての事業年度の一致や、70%以上の資本関係などには変更はありません。

 

 

個人所得税の税制改正

 

 

1.       社会保険料控除の増額

 

マレーシアの社会保険制度であるEPF (Employees Provident Fund)への積立金や、生命保険、タカフル(イスラム保険)への積立金の所得控除枠がRM 6,000(約156,000円)からRM 7,000(約182,000円)へ引き上げられます。

また上限は、以下の区分ごとに設定されることとなりました。

 

-EPFなどへの積み立て                      :RM 4,000

-生命保険やタカフルへの積み立て      ;RM 3,000

 

2.       SSPN拠出金の所得控除の増額

SSPNは政府で推進している子供の教育資金の貯蓄制度(National Education Saving Scheme)ですが、このスキームへの拠出金の所得控除額がRM 6,000(約156,000円)からRM 8,000(約208,000円)へ引き上げられました。

 

 

消費税(SST)の税制改正

 

1.       輸入サービスに対するサービス税の課税の導入

 

従来は物品の輸入のみに売上税が課税されていました。この状況では、マレーシア企業がマレーシア国内においてサービスを提供する場合、外国法人が国内の企業及び消費者に対してサービスを提供する場合に比べて、6%のサービス税分高い価格に設定されてしまうことになります。

 

そのため、外国法人との公平性を確保するため、輸入サービスに対して、6%のサービス税を課税することとなりました。

外国法人が企業にサービスを提供している場合、輸入している企業がリバースチャージ方式により、輸入サービス税を申告・納税します。

 

外国法人がマレーシア国内の消費者にサービスを提供している場合は、当該外国法人が課税事業者登録を行い、申告・納税する義務を負います。

 

従って、外国法人であってもインターネットなどを通じてマレーシア国内で売上を上げている会社は課税事業者登録の義務が生じていないかを確認する必要があります。

当該サービス税の課税開始スケジュール、方法等は以下の通りです。

 

サービス提供先 開始時期 課税方法
マレーシア企業 2019年1月1日 輸入企業がリバースチャージ方式により申告・納税
マレーシア消費者 2020年1月1日 輸出企業である外国企業が課税事業者登録し、申告・納税

 

2.       特定のB2Bサービスのサービス税の免除

 

マレーシアの売上・サービス税は一段階課税の考え方のもと、売上税については製造業者への課税を基本としています。一方、サービス税についてはB2Bのサービスに対しても課税範囲に含まれており、多段階での課税が行われていました。この結果、長期的には最終消費者へのサービス価格が税率以上に上昇することになるという問題がありました。

 

このような多段階でのサービス税の課税を防ぐための特定のB2Bのサービスに対してサービス税が免除されることになりました。

具体的には一定の専門家サービスおよび広告サービスに関して、課税事業者であるサービス提供業者から一次的にサービスを受けている場合で、自らが課税事業者として顧客に同種のサービスを提供してサービス税を請求する場合は、その一次的なサービス部分についてはサービス税の対象とならないという規定が置かれました。

 

3.       小規模課税事業者に対する売上税の免除制度の導入

マレーシアの売上・サービス税は一段階課税を基本としていますが、売上税の課税事業者が、原材料などを購入した場合、その仕入先が課税事業者であった場合でも、その仕入については売上税の対象とならないこととなっています。

一方で、その仕入先が販売会社や課税事業者でない製造業者の場合でも、仕入れ段階で課税対象の商品を購入している場合には、既に売上税が反映されている価格である可能性があります。また、輸入業者からの購入の場合でも、既に輸入売上税が反映されていることになります。

上記のような場合は、その企業が不利な状況になりますので、これを解消すべく、一定の条件のもと、みなしの仕入税額控除が認められることになりました。

具体的には税務当局に申請を行い、これが承認されると、仕入先が既に売上税を支払っている場合に限り仕入額の2%(売上税が5%の商品)若しくは4%(売上税が10%の商品)を控除することができます。なお、関連会社等からの仕入れには適用できず、仕入に関する請求書等の記録を7年間保存しておくことが求められます。

 

・ 2018年11月3日から2019年 6月30日までの自主申告 10%

・ 2019年 7月1日から2019年 9月30日までの自主申告 15%

 

 

また、上記の期間が経過した後の2019年7月1日以降は最低でも45%、最高率は過少申告で100%、無申告で300%まで上がることになります。

これはOECD加盟国間の自動情報交換制度に関連して納税を促進するものですが、大統領の交代に伴い、過去の汚職等による隠れ所得に関する納税を促す面もあるようです。

 

1.       不動産利得税(RPGT)の税率の改定

 

不動産譲渡所得は取得から売却までの期間に応じて税率がかわりますが、取得後6年目以降の売却に関して税率が以下のように上がりました。

–       法人による売却   5%⇒10%

–       外国人による売却 5%⇒10%

–       その他                0%⇒ 5%

 

その結果、不動産利得税の税率は以下の通りになりました。

 

売却時期 法人 外国人 その他
3年以内 30% 30% 30%
4年目 20% 30% 20%
5年目 15% 30% 15%
6年目以降 10% 10% 5%

 

なお、6年目以降の所得に関して、RM200,000以下の住宅の売却益については、マレーシア人は譲渡所得が免税となっています。

 

 

2.       不動産譲渡に対する印紙税の改定

 

不動産の譲渡に関して、不動産価格がRM1,000,000(約26,000,000円)を超える部分の印紙税率が3%から4%に引き上げられました。その結果、印紙税率は以下の通りとなっています。

 

不動産価格 印紙税率
最初のRM100,000 1%
次のRM400,000 (総額RM500,000まで) 2%
次のRM500,000 (総額RM1,000,000まで) 3%
RM1,000,000を超える部分 4%

 

 

3.       最低賃金の改定

税制改正ではありませんが、最低賃金が以下の通りに上昇しました。

マレーシア半島                   月給RM 1,000 ⇒ 月給RM 1,100

サバ、サラワク、ラブアン      月給RM  920  ⇒ 月給RM 1,100

 

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